「Uボート、出撃せよ!」

ハヤカワ文庫「Uボート、出撃せよ!」を読みました。

本書は、第二次世界大戦初頭、イギリス海軍の本拠地であるスカパ・フローに潜入したドイツ潜水艦U47の物語です。敵の懐深く入り込み、戦艦ロイヤル・オークを撃沈。史上初めて、『潜水艦が戦艦を撃沈させた』このできごとは、ドイツ海軍のUボートを全世界に知らしめた出来事でした。
このエピソード、昨年11月7日の更新で紹介しています。そう、シングルモルト「Scapa14年」の話です。この更新の時、『そのうち読んでみたい』と書いていた本がこれなのです。今夜は、飲みながら、パラパラと再読しています。


ドイツ vs イギリス。


戦記物の小説って、読んだ記憶がありません。まして潜水艦ものですから、間違いなく初めてです。お酒を仲介にして、普段なら自分の読書の範疇でない、あまり読むことのないジャンルの本と出会えたわけです。こういう出会いも面白いですね。
物語の舞台となるのは、スコットランドの北端、オークニー諸島スカパ・フロー。この場所のすぐ近くにスキャパ蒸留所があります。しかし、お話の主人公は敵方のドイツです。スコッチのファンとしてはちょっと複雑な気持ちなのですが、歴史の1ページをのぞくのに敵味方という区分は必要ないでしょう。
読み始めて最初のうちこそ、訳文にありがちな読みづらさも感じましたが、どんどん面白くなり、後半は一日で読んでしまいました。そして読みながら、いろいろなものに興味がわいてきます。
まずは潜水艦の生活。閉所恐怖症の人はいられないでしょうね。第一、ちゃんと閉じていないと沈んでしまいますw 「板子一枚下は地獄」とは船乗りの仕事を言う言葉ですが、潜水艦乗りはもっと厳しい環境にいます。外には絶対出られない、密閉された環境が要求される、ということで、宇宙船と似ている部分があります。宇宙船と違うのは、海底に着底した時の砂の音や潮の流れの音、浮上航行する時には空中に顔を出せるということでしょう。(海上も海底も「地球の環境」なんですね。)
そして、現在、自分の艦がどこにいてどういう状態なのか、詳しくわかっているのは艦橋だけで、乗組員のほとんどはそれぞれの持ち場で黙々と働いているのです。例えば機関室。どこの海のどのへんにいるのかなんてわからないし、知る必要もない、ひたすら指令通りにエンジンを動かしたり、止めたりするのみです。魚雷手もそう。潜水艦には回転する砲塔があるわけではないので、艦の向いた方向にしか魚雷を発射できません。その方向も操舵手しだい、魚雷手はひたすら発射のタイミングを逃さないことに集中しなければなりません。こんなふうに、それぞれの持ち場でそれぞれが決められた仕事をこなし、それが全てできてようやく作戦の目的が達成できるわけです。「組織の歯車」とか「会社の部品」とか言われているわれわれサラリーマンも、潜水艦乗りとあまり変わらない気がします。
また、男の子なら誰でも、ガンダムを見ていてMSや兵器に興味がわくごとく、潜水艦や魚雷のこともいろいろ調べているうちに面白くなってきました。例によってwikipediaが大活躍するわけですが、圧縮空気魚雷…電気魚雷…と、技術の進歩に関する記述を読んでいくのも楽しいものです。本書とは関係ありませんが、日本軍も高性能の酸素魚雷を開発していたんですね。さらにgoogleで「G7e 電気魚雷」で検索すると、艦船模型を作っている人のウェブページがありました。これは楽しい!カットモデルでUボートの仕組みがよくわかりますし、何しろ魚雷がかっこいい。このへんは文庫本じゃわからない世界です。読みながら、飲みながら、見ながら、というわけで、通常の3倍くらい楽しめますw


小さなグラスでストレートで飲んでいます。チェイサー(水)は写っていません…。


↓お時間のある方はこちらを。スカパ・フローにおけるU-47の航路図が載っています。
ギュンター・プリーン(wikipedia)


さらに雑学を。撃沈された「ロイヤル・オーク」ですが、この名前、「清教徒革命中の1651年、当時のイングランドスコットランド皇太子チャールズ(のちのチャールズ2世)が議会軍との戦いに敗れた後、彼らから逃亡する際に隠れたオークの木に与えられた名前(以上wikipediaより)」なのです。(なんか日本にも似たような話があった気がしますが…)つまり、イギリス王室にとってはたいへんゆかりの深い名前なのです。そう、「ロイヤル」が付いているだけでもありがたい名前です。事実、「イギリス海軍には歴代8隻の軍艦に「ロイヤル・オーク」という名前が付けられている。(以上wikipediaより)」そうです。その、おそらくはエース級の戦艦に命名されたのでしょう。その艦を沈められてしまったイギリスは、ものすごく悔しい思いをしたことでしょうね。

ついでに余談。「プリンス・オブ・ウェールズ」という名の戦艦がありました。チャーチルのお気に入りで「世界最強」と言わしめたというこの戦艦、マレー沖で日本軍に沈められてしまいます。この時もイギリス国民は悔しかったでしょうね。なにしろ、王子の称号を持つ艦ですから。

最後に「オーク」。ウィスキーを熟成する樽は、まさにオークの木で作られています。オークこそ、ウィスキーの芳醇な香りと味わいの原点なのです。ですから、この「ロイヤル・オーク」が撃沈された物語こそ、ウィスキーを飲みながら読むべきなのです。
…て言うか、三段論法?