火星を見よう

最近、夕方の東の空に明るい星が見えているのにお気づきでしょうか?実は今、火星が近づいて来ているのです。
ここ数日、ちょうど月が近くを通りますので、見てみてください。赤くて、明るくて、普通の星と違うのが良くわかります。色も違いますけど、火星は「またたかない」ことにお気づきでしょうか?一般に惑星は「面積のある光」なので、光の束が太く、束ごと大気のゆらぎに影響されることがないからです。


2009年1月29日21時(北関東)


2009年1月30日21時(北関東)


2009年1月31日21時(北関東)



いつものように、星座図。かに座です。…といっても火星以外の星は暗いので、まず見えないでしょう。ただでさえ明るい星が少ないところに、さらに満月があるのですからたまりません。まぁ、「月夜のカニ」ですから…w



左下に「しし座」の顔、右下に「うみへび座」の顔、上に「ふたご座」のポルックスが見えます。


今回の接近は「小接近」と呼ばれるもので、あまり近くなりません。最接近は28日でしたが、9933万kmでした。それでも月の距離の260倍になります。お隣の天体とはいえ、こんなに離れているのです。
さて、火星と地球との接近を、この1年で見てみましょう。一ヶ月ごとの、各惑星の位置です。
















全ての惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を描いています*1が、大半の惑星の軌道は円に近いものです。ところが、軌道図を見るとおわかりのとおり、火星の軌道は見るからに楕円です。そこで、火星が太陽に近い位置(近日点)付近にある時に地球に近づくと「大接近」、太陽から遠い位置(遠日点)付近にある時にだと「小接近」と言われます。記憶に新しいところでは、2003年に火星の大接近がありました。この時で5580万km。この時でさえ月の150倍彼方でした。



宇宙開発の分野では、将来的に火星有人探査の計画があるようですが、実はこの距離がたいへんな問題になります。というのは、光(=電波)が届くのに時間がかかるのです。大接近の時でも3分弱、今夜でも5分です。*2つまり、「もしもし」と言う電波が相手に届くのに5分かかり、「はいはい」と言う答えが帰ってくるのにさらに5分かかり、「もしもし」「はいはい」だけで10分を要することになります。もちろん、有人探査ともなれば綿密なプログラムに基づいて行動するのでしょうから、いちいち地球にお伺いをたてるわけでもないでしょう。でも、何か事故があった時、それがわかるまでに5分、対策を考える時間があって、司令を送ってから現場に届くまで5分…といったやりとりになるわけです。通信一つとっても火星の有人探査がいかに難しいものかおわかりでしょう。
さて、2003年8月27日の5580万kmという距離は、実は記録的な近さなのですが、反対に、火星は地球からどのくらいまで離れるのか、調べてみました。これは下図のように、火星が遠日点付近にいる時、地球が反対側にいる場合ですが、最近ですと、1987年8月23日に、4億0032万kmまで離れています。光が届くのになんと20分以上もかかってしまいます。「もしもし」「はいはい」だけで40分…。火星に移住するとしたらこういう「大離隔」の時期もあるわけで、この時期に火星移民はひときわ望郷の念にかられることでしょう。


  ※ 図の作成には「Stella Navigator ver.5」(アストロアーツ)を使用しました。

*1:ケプラーの法則

*2:つまり、今夜見ている火星の光は、5分前に出た光なんです。