アイソン彗星、消滅か!?

今日はアイソン彗星の近日点通過の日。彗星が、大きく化けるか、消えてしまうか、大きく運命の別れる日です。


彗星は『汚れた雪だるま』とたとえられるように、いろんな物質が混ざって固まっています。太陽系の外れにある頃はこれがガチガチに固まっていて、岩石の塊の小惑星と変わりない姿をしています。それが、太陽に近づくにつれ、強烈な熱を浴びて少しずつ物質が溶け出し、彗星本体の周囲に大気を形成します。さらに蒸発した物質が増えると、太陽の光の圧力で、太陽のほぼ反対方向に尾として伸びていきます。つまり、太陽に近づけば近づくほど物が豊富に溶け出し、明るくなる可能性があるわけです。
しかし、天国と地獄は紙一重。熱が強すぎて、彗星物質のほとんどが溶けてなくなってしまう事もあります。熱だけでなく、太陽の強烈な引力、潮汐力によって彗星本体がバラバラに砕け散ってしまう可能性もあるのです。
今回のアイソン彗星、近日点(軌道のうちで最も太陽に近づく)距離が数ある彗星のうちでもかなり近い方で、彗星本体が十分大きければ、たくさんの物質が溶け出して、明るくなり、長大な尾をなびかせるだろう、と予報されていました。実際、かなりの遠距離で発見されたので、これは本体が大きいのでは、と予想されたのです。


今日は、仕事の合間に携帯を見たり、昼休みにパソコンをのぞいたり、落ち着かない1日でした。仕事のついでに見るネットニュースで情報が入ってきます。これが、消滅した…復活した…やっぱり消滅した…と、二転三転…。まことに一喜一憂の日でした。でも結論から言うと、どうやら「消滅」ということのようです。彗星本体は、バラバラに砕け散って、蒸発してしまった、とのNASAの発表がありました。
まぁ、こんな事も珍しくないのが天文界。特に彗星の予報というのは難しいものです。1973〜74年のコホーテク彗星騒ぎを知っている世代なので、『あぁ、またか』という感じも持っています。ついでに『マスコミが騒ぐと彗星が暗くなる』というジンクスも思い出しました(笑)。


さて、未だにNASAのサイトがつながりにくいのですが、gifアニメを拝借してきました。(NASAの画像はクレジットを明記すれば利用可能です)太陽探査機SOHOによる画像を動画化したものです。


探査機と地球の位置関係。名古屋市科学館から画像を(黙って)お借りしました。スミマセン。

SOHOは、太陽・地球間のラグランジュ点から太陽を常時観測している探査機です。地球の周回軌道じゃないので、人工「衛星」ではありません。同様に、今回、遠く太陽の向こう側から観測画像を送ってきているSTEREO探査機も「衛星」ではありません。これらの探査機は、いわば「人工惑星」ですね。


右下から視野に入ってくる彗星。


明るくなりすぎてスミア(光があふれて横の光条に)が生じています。おそらくこの時点でマイナス等級です。

でも一番明るかったのはこの時点でした。まだ近日点通過の前です。


遮蔽ディスク(太陽本体の光をさえぎるディスク…この観測装置は太陽本体ではなく太陽の周囲のコロナを観測するためのものです)に隠れる頃には頭部の強烈な明るさがなくなってしまっています。


遮蔽ディスクから出てきたところ。彗星の頭部はますます暗くなっています。


最新映像。明るくなっているように見えますが、頭部崩壊の際に放出された物質が広がってきた、ということのようです。


…と、こんなふうに、アイソン彗星の太陽接近を、探査機の画像で知ることができました。いや実はこれってものすごい技術の進歩なんですよね。地球外から観測ができなかった頃は、太陽に近づいている間、彗星は全く観測できませんでした。(コロナグラフはありましたが、これで観測できたイケヤ・セキ彗星は例外中の例外でした。)ドキドキしながらネットの画像を見る…これって、半世紀前にはなかった新しい観測の方法なわけで、おかげさまで十分楽しませていただきました。感謝したいと思います。


さて、彗星マニアとしては、消滅してしまったアイソン彗星の残骸が観測できるか?という点に着目したいと思います。つまり、「尾だけになった彗星」が、アイソン彗星の見えるはずだった12月上旬に、明け方の空に見えてくるか、というのがテーマです。そんなわけでもうしばらく「アイソン彗星観測体制」を解除しないでおきたいと思っています。