天の北極を探検しよう (1)


(この記事は、筆者が天文同好会の会報に書いた記事を、ブログ用に書き換えたものです。)


プラネタリウムなどで、よく『○○を使って北極星を見つけよう』というコンテンツがあります。今回はもっともっとマニアックに、『北極星を使って天の北極を見つけよう』という話です。
そもそも北極星を見つける目的とは、北の方角を知るため…というものですが、その理由(原因?)は、たまたま『北極星が天の北極のすぐ近くに位置する』からです。すぐ近く…っていうだけで、ドンピシャではないのです。その微妙な違いを知るべく、さぁ、天の北極探検に出かけましょう。


なぜこんな記事を書こうとしたかというと…2015年5月27日の更新で、北極星に接近しているラブジョイ彗星(C/2014 Q2)を撮影できた話を書きました。天の北極近くを通過する(=赤緯が高い)ということは見かけの動き(この場合は地球の自転による「日周運動」の事です)が小さく、望遠レンズを使った固定撮影でも8等級の彗星を写すことができたのです。
2015年現在、北極星は天の北極から1度ほど離れたところにあります。APS-Cに200mmレンズでは、視野内でそれなりに離れることになり、固定撮影で「北極星ぐるぐる」を撮る場合、何も見えない天の北極を写野の中心に据える必要があります。さあ、どうやって天の北極の見当を付けようか?まるで、何のマークもない北極海の氷原で、北極点を見つけるのに似ているような気がします。



こういう写真を撮る際に、真ん中の位置を決めるために…!


良い機会なので、天の北極付近を探検してみることにしましょう。


北の空の日周運動。5分間。


ここに、北斗七星と小北斗。


中央付近を拡大してみます。


上と同じ画角。小北斗(こぐま座)です。小北斗の端に北極星があり、このすぐ近くに天の北極があります。


さて、ちょっと印象的な星の配列がありましたので、紹介したいと思います。それは、こちらです。名付けて「矢じり座」。矢じりは「鏃」とも書けます。またの名を「アルカスの矢じり」…こぐま座の伝説からです。母が変身させられたおおぐまを射止めようとした息子のアルカス、そのねらっていた矢を、大神ゼウスがあとから拾い上げたものです…という後付けのお話を思いつきました。(マンガ「ジョジョ」好きな方は、別の「矢」を連想するかも…。)

構成する恒星(←ダジャレ…w)

バイエル名 本名 明るさ 備考
矢じり座α こぐま座α 2.0m 北極星
矢じり座β こぐま座δ 4.4m 小北斗の2番目
矢じり座γ こぐま座2番星 4.2m 実はケフェウス座
矢じり座δ ケフェウス座OV 5.10-5.16m 51番星は間違い


この「矢じり座」、北極星を中に含む三角形ですが、線をあえて内側に結んで、矢じりの形にしています。こうすると、こぐま座δがちょっと遠い角(三角形としてはとんがっている方向)=矢の先端になり、方向がわかりやすくなります。左右の対称性も良く、均整の取れた矢じりで、しかも一番明るい星が真ん中に入っているという安定感もあります。
もちろん、内部に北極星が入っているくらいですから、当然、年中・一晩中、晴れればいつでも見ることができます。恒星時(=子午線通過中の天体の赤経)17時の頃、つまり、さそり座が南中している頃、この矢が真上を向きます。逆に、恒星時5時の頃は真下に向きます。カペラやリゲルが南中する頃です。
矢じりの見かけの大きさは、長辺で6度ちょっと。実視野7度の双眼鏡ではキツキツ、できれは8度くらいは欲しいところです。7倍未満で広視野タイプの双眼鏡が良いですね。暗い星でも5等級ですから、理論的には肉眼でもイケルはず。双眼鏡なら、口径は小さくても空がちょっと暗ければ見えるはずです。(ちなみにビクセンGPの極軸望遠鏡だと矢じりの4星が全部入ります!)


さあ、上の画像をまた拡大してみましょう。

対角線で、画角23度くらい。


「矢じり座」は、これだ!


「ステラナビゲーター」で、同じ角度にして表示してみました。

実は…赤い×が「天の北極」です!


この矢じりの良いところ、なんといっても「天の北極が三角形の内側にある」ってこと。なんと、内側なんですよ!天の北極を「指し示す」どころか、内部に含んでしまっているという贅沢さ!!!つまり、この矢じりを見つければ、天の北極にほぼたどり着いた、と言えるのです。


【つづく】

鏃(やじり)型。矢じりというのは、弓矢の矢の先端部分です。英語で言うとアローヘッド。(余談ですが、NFLの カンサスシティ・チーフス "Kansas City Chiefs" のホームはアローヘッドスタジアムといいます。ネイティブアメリカンの酋長がチーフ、その狩猟に使った道具をシンボル化したものでしょう。)ところがなぜ日本語だと矢じり(矢のお尻)なんでしょう?実は、日本の弓矢というのは、まっすぐ飛ばすためには矢(特に矢羽根)のメンテナンスに非常に気を使うそうです。そのため、羽根を矢立の外に出すようにして保管します。つまり、矢の先端は下に向くことになり、端という意味で「しり」という言葉になったようです。
この形、考古学が好きで矢じりを拾った経験のある方には懐かしい形かもしれません。また、車を運転する方は、カーナビのカーソルの形に似ている、と思われるかも知れませんね。まさに北の方角を指す矢印。それがこの「矢じり」です。別名「北極ナビ」はいかがでしょう。