金星の太陽面通過のスケールモデル

6月6日に、金星の太陽面通過*1があります。太陽の手前をシルエットになった金星が横切る、という現象で、243年に4回だけ(121.5年、8年、105.5年、8年という間隔)起こるというレアなものです。ちなみに20世紀には一度も起こりませんでした。21世紀に入り、2004年と2012年に見られ、次は105.5年後とその8年後、つまり2117年と2125年に起こります。現在生きている人は、今年を逃したらまず見られないでしょう。晴れてくれると良いのですが…。


5月16日に「金環食スケールモデル」と題してブログを更新しました。今回は、その金星版です。
まずは復習から。四千万分の1スケールの、太陽と地球と月です。

  • 地球…直径32cmの球。バレーボールくらい。
  • 月…直径8.5cmの球。野球のボールくらい。
  • 両者の平均距離…9.6m。

「バレーボールを中心に、半径9.6mの軌道を描いて、野球のボールが公転している」それが地球・月系です。これ…けっこう離れていますねぇ…。

  • 太陽…直径34.8m。地球との平均距離は3740m。

太陽は、隣町にある世界最大級のプラネタリウムのドーム、あるいはガスタンクの大きさで、3.7km先にある事になります。


さて、金星はどうでしょう?金星の場合も、ちょっと考えると内合(地球から見て太陽と金星が「合」(バッサリ言うと「同じ方向に見えること」です)になるうちの、金星が内側に来る場合)の度に太陽面通過をしていてもおかしくない気がしますが…?

  • 金星…直径30cmの球。地球とあまり変わらず、やはりバレーボールです。
  • 太陽〜金星の距離…2.7km。
  • 太陽面通過の時の地球〜金星の距離…1.0km


つまり、金星の太陽面通過は、「1km離れたバレーボールが、隣町のガスタンクと重なって見える」現象なわけです。


金星の軌道傾斜による、上下の運動量を概算で求めます。金星の軌道傾斜角(地球軌道に対する傾き)は3.4度。Google三角関数を計算できます。tan(3.4*pi/180)=0.0594109471、これに半径2.7kmを掛けると、160m。…えっ、ホント?なんか間違ってない?
つまり金星は、内合の度に、『ここを通ればガスタンクと重なって見えるんだけどな・点』から、上下160mの幅を通過しているわけです。いやはや、こりゃなかなか太陽面通過にはなりませんね…。


逆に検証。地球から1km離れた160mは…約9度。金星は内合の時に太陽の最大9度も南北を通過するんでしょうか?これ、ソフトで試してみました。2000年から100年間の金星の動きです。真ん中の白丸が太陽で、周囲の円は半径10度です。1日おきにドットを打っていますが、ドットの間隔が広い(=一日の運動量が大きい)方が内合です。最大で8度くらい南北を通過しているように見えます。


こうして、金星の軌道傾斜によって、やっぱりなかなか太陽面通過は起こらない現象である事がわかりました。幸いにしてこの時代に生まれている皆さん、めったにないチャンスです。ぜひご覧いただきたいものです。


では実際のところ、金星の太陽面通過、どんな風に見えるのでしょうか?肉眼で見えるのでしょうか?その答は『かなり難しい』の一語につきます。月以外に最も地球に近づく天体で、しかも地球とほぼ同じ大きさの金星とはいえ、この時の視直径はおよそ1'。角度の1分、つまり月の見かけの視直径の30分の1であり、肉眼で見分ける事のできる限界が1分とも言われています。
しかし、2004年に肉眼で見たという人によると、『金星は真っ黒な点なので、肉眼黒点などと比べるとずっと見やすい』とのこと。まぁ一言で言うと『目の良い人なら肉眼で見える大きさ』ってことでしょうか。
もちろん、金星の太陽面通過を見るためには、太陽観測フィルターが必須ですが、わが「ど寒ブログ製太陽観測フィルター」で見えるかというと、これが甚だ疑問だったりします。というのは、耐久性を優先してラミネートしたため、フィルターの平面性が悪いのです。勘の鋭い方はおわかりになったと思いますが、この平面性の悪さのため、太陽像が歪んで見える事があります。うまくフィルターの中の精度の良い部分を探して見れば、なんとかなるかもしれませんけど。


そんなわけで、金星の太陽面通過を肉眼で見たいという方、市販の太陽観測フィルターをお使いください…(弱気)。

*1:日面通過とか日面経過とも言われます。