日食の話

「皆既日蝕」をご存じですか?あらゆる天文現象、いや自然現象の中で、おそらくは最もエキサイティングな現象に違いありません。真昼だというのに太陽がどんどん暗くなり、ついには黄昏時のような明るさにまでなってしまいます。太陽は、光球の全てが月に隠され、空にあいた穴のような黒い丸に見えます。そして、普段は見ることのできないコロナがその周囲に真珠色に広がります。それが、わずか数分の間に、元の明るさに戻ってしまうのです。
古代から、皆既日食は天変地異として恐れられてきました。その予報ができるかどうかは、時の権力者にとっては大きな課題だったに違いありません。中国では、日蝕の予報に失敗した予報官が処刑される、といった事も記録に残っています。
なぜ、こんな現象が起こるのかというと、太陽の手前に月が入り込み、太陽を全て隠してしまうからです。(部分的に隠すのは部分日蝕といいます。)あれっ?それなら、新月のたびに皆既日蝕が起こっても良さそうですよね。そうならないのは、月の軌道面が地球の軌道面(=太陽の見える方向)に対して、微妙に傾いているため、ほとんどの新月の時に、月は太陽のわずか上や下を通ってしまうからです。
軌道面の傾きとともに、軌道がわずかに楕円になっていますので、地表から月までの距離によって月の見かけの大きさが微妙に変わります。太陽よりも見かけの大きさが大きければ、太陽の全てを隠す皆既日蝕となり、小さければ月の周囲から太陽の光が見える金環日食となります。太陽の直径は1,392,000km(地球の約109倍)、月の直径は3,476km。実際の大きさはこんなに違いますが、地球からの距離の比率により、見かけの大きさはほとんど同じ。これ、奇跡的な偶然なのです。
そんな皆既日蝕ですが、金環日蝕と合わせると、実は毎年1回程度は、世界のどこかで見えている計算になります。それでも、皆既日蝕が起きる度にニュースになり、大勢の人がわざわざ観測に出かけていきます。それというのも、「皆既」が見られる範囲が、非常に限られているからです。ある瞬間に皆既日蝕が見える地域は、およそ100km〜数100km程度の楕円形の地域です。その地域だけ、月が太陽を隠しているわけですので、もしも衛星軌道から見たら、黒い楕円形の影がが地球に落ちているのが見られるでしょう。その黒い影、猛烈なスピードで西から東に駆け抜けて行きます。この、影が駆け抜けていく地域を「皆既帯」と呼びます。今回の皆既帯は、このような地域です。


【図は、いずれも「エクリプス・ナビゲータ」にて作成。】 ぼんやりした画像になってしまいました。申しわけありません。



2番目の図の赤い楕円は、この瞬間に月の影が落ちている場所、つまり、皆既になっている場所を示します。この楕円「本影」が秒速数100mで地上を移動して行きます。ある地域が本影に入ってから出るまでの時間が、皆既が見られる時間(皆既継続時間)となります。今年の皆既日蝕は、この皆既継続時間が長く(今世紀では最長)、つまりはその時間に色々な観測ができるわけなので、非常に注目されています。(ちなみに、5分を超える皆既は、今世紀中に11回しかありません。)


皆既が見られない地域でも部分日蝕が見られます。今年の7月の日蝕では、およそこの程度の部分日蝕が見られます。(いずれも、最も欠けた時のもの)おそらく東京あたりでも、『夏の午前10時過ぎにしては、なんだか陽差しが頼りないなぁ…』『少し涼しいかな』くらいは感じると思います。九州では10時少し前が最大で、かなり暗くなり、異様な雰囲気になるかもしれません。


札幌


仙台


東京


大阪


博多


鹿児島

この頃は夏休みに入りますし、テレビや新聞でもいろいろ話題になると思います。せっかくの機会ですので、皆さんもぜひ見てみてください。ただ、当たり前ですが、お天気が悪いとどうしようもないんですよねぇ。まぁ曇ったとしても、テレビのニュースやインターネットで、晴れている場所から生中継したりすると思います。
観察する時に気をつけていただきたいこと、それは、太陽をそのまま見ない、という事です。見ても、まぶしくて何もわからないでしょうし、第一、目に非常に悪いです。特に、望遠鏡では絶対に太陽を直接見ないこと。冗談抜きで「目玉焼き」になってしまいますから。焼けた網膜は二度と元に戻りません…。それでは、どうすれば良いかというと…

日蝕の観察方法(入門)

  • 特殊なフィルターを使う…太陽観測用の濃い色フィルターです。肉眼用から望遠鏡用まで、いろいろあります。色が濃すぎて、太陽以外の物はほとんど見えません。白熱電球のフィラメントなら見えるかも。望遠鏡メーカーやショップなどから今回の日蝕に合わせて販売されていますが、早くも品薄状態のようです。よく、「下敷き」、「ローソクのすすをつけたガラス」、「感光して真っ黒になったフィルム」などが使われますが、いずれも有害な波長をカットすることは考慮されていませんので、長時間の観測はやめた方が良いです。

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  • 望遠鏡で「投影観測」する天体望遠鏡をお持ちの方は、投影観測しましょう。これは、直接のぞくのではなく、太陽の像を白い紙に投影する方法で、安全で多人数でも観測できるのが利点です。
  • ピンホールカメラ(針穴写真機)方式…これ、最も簡単で、しかも安全に見られます。紙に小さな穴を開けて別の白い紙に太陽を投影します。普通ならまん丸い像が映りますが、日蝕の時は欠けた形がそのまま投影されるのです。紙を用意しなくても、公園などに行って「木漏れ日」を観察することができます。木漏れ日も一種のピンホールカメラです。普通は丸いのですが、日蝕の時は欠けている太陽の形に見えるのです。


さて、私の観測予定はというと…実は、奄美大島に行くツアーに参加する予定で、申し込みをすませました。どこに行こうかいろいろ検討したのですが…

  • 硫黄島…計算上、最も皆既継続時間が長くなるのが硫黄島付近の海上です。硫黄島は、一般の人は上陸できないんですよね。
  • トカラ列島…皆既継続時間の長いトカラ列島へ行くツアーは、抽選だし、国内にしては超割高です。一週間で30万円とかw
  • 上海…たくさんのツアーが出る上海は、オプションなど選択肢に富んでいますが、スモッグがすごいそうです。海外旅行はいろいろ面倒。中国は持ち込みの機材の手続きとか、特に面倒くさそう。
  • 洋上ツアー…船の上から日蝕観測というツアーもあります。晴れそうな場所に移動できるのが最大のメリット。船が揺れるので望遠鏡が使いづらいのが最悪のデメリット。

う〜ん、せっかく国内で見られるんだからどこかないかなぁ…と思っているところへ、人づてに「奄美のツアーに空きが出た」との知らせが来ました。渡りに船!とばかりに、即、申し込んだところなのです。あとは休暇がとれるかどうか、それが問題なのですw